私を愛したスパイ

「大変だ、10種配合の秘密を産業スパイに盗まれた!」
所長からの緊急電話にたたき起こされた俺は、愛車アス トン・マーチンを飛ばして事件現場に駆けつけた。  SUGOJYU配合原理研究所は、美しい田園地帯に ある。俺が門をくぐると養殖池のスッポンたちが心配 そうに顔を出してきた。「安心しろ、お前たちの秘密は 必ず俺が取り戻してやる」  所長はおかんむりだ。「パスワードを解読されたぞ。 私と君しか知らんのに」所長、俺は誰にも口外してませ んよ。寝言でつぶやいたこともない。「早く犯人を捕ま えろ。他社に情報が漏れる前に!」

 俺はマーチンを飛ばして犯人を追った。予想通り、そいつ はライバル会社の地下駐車場にいた。全身黒づくめに覆面 なんてイカニモじゃねぇか。俺に気づいた犯人は忍者の ような身のこなしで俺に拳を浴びせてくる。俺はそいつの 腕をひねり上げると羽交い締めにしたが……「あっ?」と 思わず手を離してしまった。女だ。覆面を剥ぐとそいつは、 何と以前付き合っていた彼女だった。俺に捨てられて、 ずっと恨んでいたのか。しかしよくパスワードが分かったな。 「だって毛布をかけてあげるたび、あんた寝言で何度も つぶやいてたじゃない」俺は怒るのも忘れ、彼女をぎゅっ と抱きしめた。その拍子に彼女の胸の、盗んだディスクが パリンと割れた。

 俺はいまベッドから所長に電話をかけている。横で 彼女が眠っている。「凄十の秘密情報は無事取り戻し ました。ねえ所長、そろそろこのパスワード変えま すか?ORETTE GOKAI(俺って豪快)っ!……」

[END]

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